【別紙】

 

1 当事者の概要

(1) 申立人X1(以下「組合」という。)は、平成22年4月25日に結成された、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約200名である。

(2) 申立人X2(以下「支部」といい、組合と併せて「組合ら」という。)は、会社に勤務する有期雇用の外国語講師である組合の組合員らが、26年6月1日、組合の支部として結成した労働組合であり、本件申立時の組合員数は十数名である。

(3) 被申立人会社は、語学教室である〇〇〇〇英会話スクールの経営等を業とする株式会社である。スクールには、会社が直接運営する直営校と、会社とのフランチャイズ契約により運営されているFC校とがある。

   会社と有期雇用契約を締結している講師には、フルタイム雇用で賃金が月額制の常勤講師と、非常勤で時給制のパート講師とがいる。30年現在の講師数は約410名であり、その内訳は、常勤講師が約300名、パート講師が約110名である。

 

2 事件の概要

  平成26年6月1日、会社が経営する英会話学校に勤務する有期雇用の外国語講師である組合の組合員らは、支部を結成し、会社に通知した。

  組合らは、組合員の無期雇用契約への転換等を求めて会社と団体交渉を行ったが、交渉が進展しないため、1111日からストライキを開始し、以後、断続的に組合員の時限指名ストライキを続けている。

  組合員X3は、会社が英会話の授業の講師派遣契約を締結しているZ1社に派遣され、英会話の授業を行っていたが、ストライキを実施したところ、27年1月、会社から、Z1社の担当を外すと通知された。2月以降、会社から同人への授業の依頼が減少した。

  組合員X4は、木曜日に、FC校である、ひばりが丘校の授業を担当していたが、2610月、生徒からの苦情等を理由に、同校の担当を外された。その後、X4がストライキを実施したところ、同人の担当する授業コマ数が減少し、27年7月には、コマ数がゼロとなった。

  組合員X5は、27年5月、FC校のオーナー(以下「FCオーナー」という。)であるZ2から、会話の前後の文脈は必ずしも明らかでないものの、X5の上司であるY2教区長が、Z2に対し、X5を解雇するための理由は何かありませんかと発言したことを聞いた。

  X5は、27年6月、FCオーナーから講師変更の要請があった等の理由により、たまプラーザ校から成城学園前校へ配置転換となった。10月には、成城学園前校の木曜日の授業の担当からも外された。

  組合員X6は、28年4月9日の有給休暇を申請し、会社の承認がないままに休暇を取得したところ、4月11日付「最終警告書」を交付された。

  X6は、2811月から12月にかけて長期間の有給休暇を申請し、会社が同人の有給休暇は残っていないとして承認しない中で、休暇を取得したところ、会社は、29年2月28日付けで同人を雇止めとした。

  本件は、以下の6点が争われた事案である。

 (1) X3をZ1社の担当から外したこと、同人に対する仕事の依頼回数が減少したことは、組合員であること又は正当な組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱い及び組合らの組織運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)。

 (2) X4の授業コマ数が減少したことは、組合員であること又は正当な組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱い及び組合らの組織運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)。

 (3) 27年5月頃、X5の上司であるY2教区長が、FCオーナーのZ2に対し、X5を解雇するための理由を探している旨発言した事実があったか否か、事実があった場合に組合らの組織運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)。

 (4) X5をたまプラーザ校から成城学園前校へ配置転換したこと及び同人の成城学園前校における木曜日の授業を外したことは、組合らの組織運営に対する支配介入に当たるか否か(争点4)。

 (5) X6に対し、欠勤を理由に28年4月11日付「最終警告書」を交付したことが、組合員であることを理由とする不利益取扱い及び組合らの組織運営に対する支配介入に当たるか否か(争点5)。

 (6) X6に対する29年2月末日付けの雇止めは、組合員であること又は正当な組合活動を理由とする不利益取扱い及び組合らの組織運営に対する支配介入に当たるか否か(争点6)。

 

3 主文の要旨

 (1) 組合らの組合員であるX6に対する28年4月11日付「最終警告書」をなかったものとして取り扱わなければならない。

 (2) 文書の交付

   要旨:X3に対し、27年2月以降、業務の依頼回数を減らしたこと、及びX6に対し、28年4月11日付「最終警告書」を交付したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないように留意すること。

 (3) 前項の履行報告

 (4) その余の申立ての棄却

 

4 判断の要旨

 (1) X3をZ1社の担当から外したこと等について(争点1)

  ア X3をZ1社の担当から外したことについて(棄却)

    授業が予定どおり開始されない理由がストライキであったとしても、授業が予定どおり開催されないことを理由とするZ1社からの担当講師変更の依頼に会社が応じることは、業務上の必要性に基づく対応であるといえる。会社がX3に担当講師変更に伴う休業手当を支給していたことも考慮すれば、会社が、Z1社の担当講師を変更してX3を同社の担当から外したことは、同人が組合員であることや組合活動を理由とする不利益取扱い、又は組合らの組織運営に対する支配介入であるとまでいうことはできない。

  イ X3に対する仕事の依頼回数が減少したこと(救済)

    会社は、X3に対し、27年2月以降、講師の仕事を一切依頼しなくなり、これまでより少ない頻度でソシアル・イベント等の業務のみを依頼していることの合理的な理由を説明していないのであるから、同人に対する仕事の依頼回数が減少したのは、同人が2612月から27年1月にかけてストライキを行ったことを理由にしたものであるとみざるを得ない。したがって、27年2月以降、X3に対する業務の依頼回数が減少したことは、同人がストライキを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるとともに、ストライキを抑制することにより組合らの弱体化を企図した支配介入にも該当する。

 (2) X4の授業コマ数の減少について(争点2)(棄却)

   会社がX4をひばりが丘校での木曜日の授業から外したのは、生徒からのクレームが多いとして、同校のFCオーナーから講師変更の要請があったためであり、X4の新宿校等での授業コマ数がゼロになったのは、ストライキによる度重なる授業不開催によって、X4の生徒の多くが他の講師に移ってしまったためである。会社が、ストライキの実施を直接の理由として講師を授業から外したのであれば、それは、不当労働行為になり得るといえる。しかし、会社はストライキ実施後も相当期間X4に授業を割り振っていたものの、その間に生徒が他の講師の授業に移り、X4の授業に生徒が集まらなくなってしまった以上、会社が新宿校での火曜日の授業からX4を外したのは、業務上の必要性によるものであったといわざるを得ない。

   したがって、会社がX4をひばりが丘校での木曜日の授業から外したこと、及び同人を新宿校での火曜日の授業から外し、27年7月以降の同人の授業コマ数がゼロとなったことは、同人が組合員であることや組合活動を理由とする不利益取扱い、又は組合らの組織運営に対する支配介入であるということはできない。

 (3) Y2教区長の発言について(争点3)(棄却)

   会話の前後の文脈は必ずしも明らかではないが、Y2教区長がZ2に対し、X5に解雇に値するような非違行為があったのかどうかを尋ねた事実はあったものとみざるを得ない。しかし、Y2教区長の発言については、たまプラーザ校や他校での悪評を聞いてX5が解雇されるのではないかと心配するZ2に対し、同教区長が、X5に解雇されるような理由があるのかと尋ねたにすぎないとも考えられ、必ずしも、同教区長がX5の組合活動を嫌悪し、同人を解雇するために、その理由を探そうとして発言したとまでみることはできないから、組合らの組織運営に対する支配介入に当たるということはできない。

 (4) X5の配置転換等について(争点4)(棄却)

   会社が、X5をたまプラーザ校から成城学園前校へ配置転換したのは、FCオーナーのZ2からの要請に基づくものであり、講師の質によって自らの経営に直接影響を受ける面のあるFCオーナーからの要請を受け、同オーナーが指摘する講師の評判や実績を考慮して、講師変更の要請に応じることは、業務上の必要性に基づく対応であるといえる。

   また、会社がX5を仙川校に異動させたのは、成城学園前校の生徒からX5に対する苦情が相次ぎ、実際に、他の講師の授業に移るなどした生徒が多く、X5の授業コマ数が減少したためであるから、会社が、同人を異動させたのは、業務上の必要性によるものであったといわざるを得ない。

   月給制の常勤講師であるX5は、異動しても賃金は変わらないこと等も考慮すれば、会社が同人を配置転換したことが、組合らの組織運営に対する支配介入に当たるということはできない。

 (5) X6への「最終警告書」について(争点5)(救済)

   X6の有給休暇申請について、会社は、同人の組合加入前の対応と異なり、2か月前を過ぎた申請を認めず、申請をした日に勤務しなかった同人に対し、それまで同人が口頭注意も書面の送付も受けたことがなかったにもかかわらず、いきなり「最終警告書」を発行するという異例の対応をしており、このことに合理的な理由は見当たらないことから、このような会社の対応は、同人が組合員であることや、組合らが団体交渉で取り上げて、同人の有給休暇取得が組合らの要求事項ともなっていたことによるものであるとみざるを得ない。

   したがって、会社がX6に対し、「最終警告書」を交付したことは、同人が組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合員に異例の処分を行うことにより組合らの弱体化を企図した支配介入にも該当する。

 (6) X6の雇止めについて(争点6)(棄却)

   会社は、従業員に、計画年休15日間、任意年休5日間の計20日間の有給休暇を認めていたが、労働基準法上、有給休暇の計画的付与には労使協定が必要であるところ、同協定を締結していなかった。そこで、X6は、会社の計画年休は無効であるから、別途15日間の有給休暇を自由に取得できると主張して、会社に有給休暇を申請し、会社が、そのような休暇は認められず、同人に有給休暇は残っていないとして勤務を命じても、同人は、それに従わず、休暇を取り続けた。

   確かに、会社の計画的付与は労使協定の手続を欠いていたが、そのことにより、従業員がプラス15日間の有給休暇を自由に取得できるとのX6の主張が直ちに認められることにはならない。会社の就業規則で計画年休を前提に労働基準法の規定を越えて有給休暇を認めている部分は、計画的付与が無効であったとしても、任意年休とはならないとの会社の見解にも一定の合理性が認められる。

   会社の制度とは異なる有給休暇を主張して、一方的に欠勤を続けたX6を会社が雇止めとしたのは、会社秩序を維持するためのやむを得ぬ措置であったというべきであり、同人が組合員であることや組合活動を理由とする不利益取扱い、又は組合らの組織運営に対する支配介入であるということはできない。

 

5 命令書交付の経過

 (1) 申立年月日     平成271013

 (2) 公益委員会議の合議  令和元年8月6日

 (3) 命令書交付日     令和元年9月25