【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ア 申立人X1は、金属機械、電機、鉄鋼、自動車などの金属関連、コンピューター、ソフトなど情報機器関連産業及び通信産業で働く労働者を中心とする全国組織の労働組合である。

イ 申立人X1東京地方本部(以下「地本」という。)は、X1の下部組織である労働組合である。

ウ 申立人X1東京地方本部X2支部(以下「支部」といい、申立人三者を併せて「組合」という。)は、昭和62年に会社の従業員が結成した労働組合であり、X1及び地本の下部組織である。本件申立て時の支部の組合員数は9名であり、このうち1名は、会社が募集した希望退職に応じた。

⑵ 被申立人会社は、東京都墨田区に本社を置く株式会社である。主として、油井管継手と掘管の製造等を行ってきたが、平成28年3月31日をもって全ての製造事業から撤退した。

 

2 事件の概要

2712月8日、会社は、支部に対し、28年3月末で製造事業から撤退すること(以下「本件事業撤退」という。)、従業員に対し希望退職を募ること、希望退職者には割増退職金を支払うことを説明し、同月11日以降、団体交渉が実施された。団体交渉を重ねる中で、組合は、組合員の雇用及び仕事の確保のための協議を進めようとしたが、会社は、製造事業からの撤退を前提とし、組合に希望退職に応ずるよう求めた。

会社は、団体交渉に参加する組合員の数を制限するよう求めたり、組合が支部組合員や上部団体の構成員以外の者も参加する集会を社屋内の食堂で行ったことを受け、支部組合員や上部団体の者以外の者が会社の敷地に入ることを制限するなどした。

また、会社は、製造事業から撤退し、従業員の大半が退職した後の28年4月18日から、守衛の配置時間外となる20時以降の組合事務所の使用を認めないこととした。

そして、会社は、組合員に希望退職に応ずるよう説得するため、4回にわたり個別面談を行ったほか、9月30日付けで支部組合員8名を解雇し、その後、自家用車等での組合員の入構を禁じたり、組合事務所外にある娯楽室の組合掲示板を移設するよう求めるなどした。

本件は、@会社の製造事業からの撤退、組合員の雇用維持、28年度の賃上げ及び組合による金銭解決案の提示に係る団体交渉における会社の対応が不誠実であったか否か、A会社が、組合の団体交渉参加人数について行った申入れが、支配介入に当たるか否か、B会社が、組合に対し、支部組合員及び上部団体構成員以外の部外者が承諾なく会社敷地内に立ち入ることを控えるよう申し入れたことが、支配介入に当たるか否か、C会社が、組合事務所の使用時間を制限したこと、事前に利用日等を届けない限り組合事務所の使用を認めないとしたこと、組合事務所の使用に当たり、車等での会社への入構を禁じたことが、それぞれ支配介入に当たるか否か、D会社が、組合から申入れのあった就業時間内の面会を認めなかったことが、支配介入に当たるか否か、E会社が、組合に対し、娯楽室内に設置されていた組合掲示板を移設するよう求めたことが、支配介入に当たるか否か、F会社が、組合員に対して、個別面談を行い、退職勧奨したことが、支配介入に当たるか否か、G会社が支部組合員8名を解雇したことが、組合員の組合活動を理由とした不利益取扱いといえるか否かが争われた事案である。

 

3 主 文 <一部救済命令(争点F(下記4⑺)のみ)>

文書交付

要旨:会社が組合員に対して個別面談を行い、退職勧奨したことが、不当労働行為であると認定されたこと。

 

4 判断の要旨

⑴ 争点@:会社の製造事業からの撤退、組合員の雇用維持、28年度の賃上げ及び組合による金銭解決案の提示に係る271211日から281024日までの団体交渉における会社の対応

ア 交渉ルール

組合は、第1回団体交渉において、組合と会社双方の協議が尽くされ、互いに納得できるまでは、会社が本件事業撤退を進めないという交渉ルールが確認されたにもかかわらず、会社がそのルールに違反したと主張する。

しかし、組合と会社とが確認した交渉ルールは、本件事業撤退について労使協議を十分に行う趣旨と解されるところ、後記エのとおり、会社は、本件事業撤退について、組合との協議を十分に行ったものというべきであるから、会社が合意した交渉ルールに違反しているという組合の主張を採用することはできない。

イ 組合員以外の従業員に対する説明等

組合は、団体交渉での協議中にもかかわらず、会社が、組合員以外の従業員に対し、製造事業の撤退に係る説明会を実施したことも、団体交渉を形骸化させる行為であり、交渉ルールに違反すると主張する。

しかし、上記アのとおり、組合が主張する交渉ルールが存在していたとは認められない。そして、上記説明会の実施に至ったのは、組合がビラを配布し、本件事業撤退について組合と会社との間で協議がなされていることが公になったことから、組合員以外の従業員からも問合せが寄せられたことによるものであり、会社が組合との団体交渉を軽視して説明会を行ったとみることはできず、会社が1228日及び同月29日に従業員に対して説明会を行ったことをもって、その対応が不誠実であったとはいうことはできない。

ウ 組合要求資料の開示

組合は、会社が組合要求資料を小出しに提出してきた点も不誠実であったと主張する。

しかし、会社は、第2回団体交渉の当日に資料開示の要求を受けてから、組合との協議を進めるため、間もなくして資料の開示を始め、組合の資料開示の要求から第7回団体交渉までの約2か月の間に、会社としては必要性を認められないと考えるものも含め、資料を提出し、その上で希望退職募集を開始したいと組合に申し入れている。このような状況からすると、会社の対応が不誠実なものであったとまではいえない。

エ 本件事業撤退に係る団体交渉

団体交渉において、会社は、本件事業撤退を全従業員に通知する直前の団体交渉までの間に、本件事業撤退に至った油井管製造事業を取り巻く情勢、取引先との経過、新たな事業展開の可能性等につき一定の説明を行い、上記ウのとおり、組合が要求する資料についても開示してきた。そうすると、会社は、本件事業撤退の必要性と不可避性について、会社なりに説明を行っており、会社が組合の合意を得るための努力を行わなかったとみることはできない。そして、その後も、会社は、組合との合意による退職を目指して、団体交渉を続け、本件事業撤退後も組合員の雇用を維持したが、団体交渉で組合から出された金銭解決の提案は、65歳までの賃金保障を前提とした金額に争議の解決金を加えたものの支払であり、提案内容は、その後の団体交渉でも変わらなかった。既に他の従業員が希望退職に応じていたところ、会社としては、団体交渉を重ねても合意退職の話合いに応じようとしなかった組合がようやく出した条件も希望退職の条件と余りにかけ離れたものであったことから、組合との話合いによる解決はもはや困難であると判断してもやむを得なかった。

したがって、本件事業撤退に係る団体交渉における会社の対応が不誠実なものであったということはできない。

オ 賃上げ要求に係る団体交渉

会社は、28年3月8日の従業員向けの説明会において、新年度の賃上げに係る質問に対し、「金額は別にして、改定はされます。」と述べているが、本件事業撤退を前にした時期の発言であったことも踏まえると、必ずしも有額回答を約束したものとはいえず、また、ゼロ回答を行ったことも不合理とはいえない。

したがって、賃上げ要求に対する会社の対応が不誠実であったということはできない。

カ 結 論

その余の事実をみても、本件事業撤退等に係る団体交渉における会社の対応が不誠実であったと認めるに足りるものはない。したがって、団体交渉における会社の対応が不誠実だったとはいえない。

⑵ 争点A:会社が、組合の団体交渉参加人数について行った申入れ

会社は、組合の過激な言動、参加人数の差等を理由に、組合に対し、複数回、団体交渉への参加人数を絞るよう求めた。

しかし、組合の参加人数は従前と変わらず団体交渉が継続して行われており、会社が組合の参加人数を絞ることを団体交渉開催の条件として固執したとか、このために団体交渉が暗礁に乗り上げたような事情は認められず、会社は飽くまでも要請をしたにとどまっているといえる。

したがって、支配介入に当たるとはいえない。

⑶ 争点B:会社が、組合に対し、28年1月28日付けで、支部組合員及び上部団体構成員以外の部外者が承諾なく会社敷地内に立ち入ることを控えるよう申し入れたこと

労使協定には、組合の集会等のために、会社が会社会議室の使用を認めることがある旨の定めはあるが、これまでに組合の集会等のために支部組合員及び上部団体構成員以外の者が会社敷地内に立ち入っていたという事実を認めるに足りる疎明はなく、また、かかる立入りを認める労使協定等の締結の事実も認められない。

組合は、271229日の「X2支部緊急激励集会」は、会社も支援者が入構することも含め、集会の趣旨を理解した上で、食堂の使用を承諾していたと主張する。しかし、会社が、支部組合員及び上部団体構成員以外の者が組合事務所に立ち入ることまで了承していたと認めるに足りる疎明はなく、組合の主張は採用することができない。

したがって、会社の組合に対する申入れには相当な理由があるというべきであって、この申入れが支配介入に当たるとはいえない。

⑷ 争点C:会社が、組合事務所の使用時間を制限したこと、事前に利用日、使用時間、入構者名、人数を届けない限り組合事務所の使用を認めないこととしたこと、組合事務所の使用に当たり、車、自転車又はオートバイでの会社への入構を禁じたこと

ア 組合事務所の使用時間の制限及び使用日時等の事前届出

会社が組合事務所の使用時間に制限を加えたこと及び事前届出としたことには、本件事業撤退に伴う守衛の配置や機械警備の導入等の事情が認められ、これらの措置が不合理なものとはいえない。その一方で、会社は、組合の要求等を受け入れ、守衛の配置時間以外も含めた組合事務所の使用を認めたり、入構者名の届出を責任者名の申出でも足りるとするなど、柔軟な対応を執っている。

そうすると、会社が、組合事務所の使用日時の制限や事前届出制としたことを支配介入ということはできない。

イ 組合事務所の使用に当たっての車等での入構禁止

会社は、通勤に不可欠であると認められる場合等に限って、乗用車又は二輪車での通勤が認めていたほかは、会社敷地内での駐車は認めていなかった。また、組合と会社との間では、組合活動のために車等で入構することを認める労使協定等があったわけでもない。

そして、支部組合員が解雇により従業員の身分を失っていたことも併せ考えると、会社が、通勤の便宜のために限って認めていた車、自転車又はオートバイでの会社への入構を、組合事務所の使用に当たって認めなかったことが不合理であるとまではいえず、これを支配介入ということはできない。

⑸ 争点D:会社が、28年4月頃、組合から申入れのあった就業時間内の面会を認めなかったこと

就業時間内に工場長等に申し入れて支部組合員と上部団体構成員との面会が行われていたことは、団体交渉において会社も認めている。

しかしながら、労使間にこのような就業時間内の面会を認める労使協定等が締結された事実は認められない。また、組合が、これまでも面会をするに当たり、工場長等に申入れを行っていたことや、就業時間内の面会は認めないことを原則としており、過去に認めた例外は申出を受けてその都度判断していたという会社の認識に合理性が認められることからみても、会社が就業時間内の面会を当然に認めるという合意形成がなされ、労使がその合意に従い行動していたとか、労使慣行が成立していたと認めるに足りる事情はない。

したがって、会社の対応が労使間の合意や労使慣行に反するということはできず、後に組合が実績と主張する範囲内で会社が面会を許可していることも考慮すると、会社が、就業時間内の面会を認めなかったことが支配介入に当たるとはいえない。

⑹ 争点E:会社が、組合に対し、娯楽室内に設置されていた組合掲示板を移設するよう求めたこと

会社は、支部組合員の解雇後、立入りを認めていない娯楽室内の組合掲示板を使用しないよう求めたものであり、組合員が組合事務所以外の施設に立ち入れなくなったのは従業員としての身分を失ったからであるという理由には合理性が認められる。そして、会社は、団体交渉での協議も経て、組合の要求を踏まえて、組合掲示板を組合事務所の入口前に移すという代替案を提案している。組合は、組合事務所の入る建物の出入口の横への移設を求め、会社の代替案を受け入れておらず、従前のとおり、組合掲示板を使用している。

このような状況も踏まえると、会社が組合掲示板の移設を組合に対して求めたことをもって、支配介入と評価することはできない。

⑺ 争点F:会社が、組合員に対して、個別面談を行い、退職勧奨したこと

個別面談は、組合が、団体交渉の席で、組合員は希望退職には応じない旨を繰り返し明らかにし、会社に対する書面でも、組合員への個別面談を行わないことを強く要求していた中で行われた。また、支部の執行委員長も個別面談において、団体交渉で話をするよう抗議している。

会社は、組合員に個別面談を行った理由として、希望退職者に対する優遇措置について、団体交渉で説明しようとしても、組合がこれに応じなかったので、希望退職の条件も含め、組合員と非組合員の別なく説明及び情報提供を行うべきと考えたと主張する。しかし、説明や情報提供が目的であれば、説明会の開催に加え、組合や組合員の反対を押し切ってまで個別面談を4回も実施する必要はない。

そうすると、会社が希望退職に応じなかった組合員に対して、4回にわたり個別面談を実施したことは、組合の頭越しに個々の組合員に対して希望退職に応ずるよう直接働き掛けるものであったといわざるを得ず、支配介入に当たる。

⑻ 争点G:会社が28年9月30日付けで支部組合員8名を解雇したこと

会社が解雇したのは支部組合員8名であるが、会社は、本件事業撤退に伴い、経理担当の1名を除き、組合員を含む従業員の全員を退職させる方針を採っていた。また、この1名は経理担当者であり、業務の必要により解雇とならなかったものであるから、組合員でないことを理由とするものではない。そうすると、会社が組合員を排除するために支部組合員8名を解雇したものとみることは到底できないし、また、会社が組合を嫌悪して、本件事業撤退を行ったとみることもできない。

したがって、この解雇が、組合活動を理由とした不利益取扱いに当たるとはいえない。

 

5 命令交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成28年3月31

 ⑵ 公益委員会議の合議 平成3012月4日

 ⑶ 命令交付日     平成31年1月29