【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人組合は、管理職を主たる組織対象として平成5年12月に結成された、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は、650名である。

会社には、会社の従業員で組織された組合の支部があり、本件申立時の組合員数は、組合の主張によれば約20名である。

⑵ 会社は、肩書地に本社を置き、日刊新聞の発行を業とする株式会社であり、本件申立時の従業員数は、4,449名である。

会社には、申立人組合とは別に、同社の正社員で構成するZ1が存在する。Z1は、昭和27年に結成され、本件申立時の組合員数は、3,560名である。

 

2 事件の概要

⑴ 平成30年1月29日、被申立人Y1(以下「会社」という。)の従業員ら数名は、申立人X1(以下「組合」という。)の支部として、Z2(以下「支部」という。)を結成した。なお、会社には、多数組合のZ1(以下「Z1」という。)が存在する。

⑵ 2月28日、組合は、会社所管の施設設備等の貸与、会議室の利用、社内便の利用等の便宜供与を議題とする団体交渉を申し入れた。

⑶ 3月28日、組合と会社との間で団体交渉が開催された(以下「本件団体交渉」という。)が、会社は組合の上記要求を拒否した。

⑷ 3月30日、組合は、当委員会に本件不当労働行為救済申立てを行った。

⑸ 6月25日、組合は、当初の便宜供与の要求を、組合掲示板の設置貸与及び18時以降の会議室の利用(以下「本件便宜供与」という。)に絞って会社に対し要求したが、7月4日、会社は、現時点では応じられない旨を回答した。

⑹ 本件は、@組合が、6月25日に本件便宜供与を求めたことに対し、7月4日に会社がこれを拒否したことが、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か、A組合が30年2月28日付けで要求した便宜供与を議題とする本件団体交渉における会社の対応が、不誠実な団体交渉に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文の要旨

⑴ 会社は、組合が便宜供与を議題とする団体交渉を申し入れたときは、誠実に応じなければならない。

⑵ 文書の交付

要旨:東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されたこと及びこのような行為を繰り返さないよう留意すること。

⑶ ⑵の履行報告

 

4 判断の要旨

⑴ 団体交渉における会社の対応について

ア 会社は、Z1に対して一定の便宜供与を認めており、同一企業内に複数の労働組合が併存する場合、使用者には中立保持義務があるのであるから、会社は、組合に対する便宜供与について、できる限りZ1に対する便宜供与と均衡の取れた取扱いを模索すべきであったといえる。

そして、組合は、本件団体交渉において、便宜供与には優先順序があるし、全部を求めているわけではなく、Z1との公平性から、労働組合の規模に比して、十分譲歩することはできるなどと述べて、優先順序や譲歩の余地があることを示しているのであるから、会社は、事前に検討して一定の結論を持っていたとしても、団体交渉で組合が示した内容を踏まえて再度検討したり、あるいは、組合に譲歩の余地等があってもなお応ずることができない合理的な理由を示して組合の理解を得るよう努力したりすべきであったといえる。

イ しかしながら、会社は、組合が譲歩の余地を示したことを受けても、便宜供与を拒否する姿勢を変えず、持ち帰って検討することすら拒否したのであり、また、拒否の理由については、労使関係には歴史がある、長い長い歴史があって、その中で便宜供与を与えるなどと抽象的な説明を繰り返すだけで、便宜供与を拒否する具体的な事情を何ら説明していないのであるから、結局、会社は、組合の要求内容いかんにかかわらず、現段階では一切の便宜供与を行わないとの姿勢を示したものとみられてもやむを得ない。

ウ また、会社は、裁判例を示して説明を行っていると主張しているが、裁判所名、事件番号及び判決年月日に言及したにすぎない上、組合がその裁判例が今回の件に適用されるか分からないと反論しているにもかかわらず、何らの説明も行っていない。

エ 以上のような本件団体交渉における会社の対応は、自らの考えについて具体的に説明し組合の理解を得ようとする努力や、合意達成の可能性を模索する努力を欠いているものとみざるを得ず、不誠実な団体交渉に当たるというべきである。

⑵ 便宜供与について

 ア 組織規模や会社との間で労使関係を構築してきた期間という点において、大きな差異が認められる場合にあっては、単に併存する労働組合との間で便宜供与に差があることのみをもって問題視することは適切ではなく、より具体的に、組合の求める便宜供与の内容、その必要性、便宜供与を行うに当たっての会社の負担、便宜供与をめぐる交渉の経緯、その他の事情を総合的に勘案して、便宜供与を行わないことが支配介入に当たるか否かを判断すべきものといえる。

イ 組合が団体交渉において、会社の従業員が10名以上組合に加入している旨表明しており、組合活動の観点から本件便宜供与の要求をすること自体が必ずしも不合理であるとはいえないこと、組合が労働組合間の規模の差を踏まえた具体的な要求をしていることを踏まえると、会社が、本件便宜供与の要求を拒否するのであれば、本件便宜供与に応ずることができない合理的な理由が必要というべきであり、そのような理由なくして本件便宜供与を拒否するのであれば、使用者として各労働組合を中立的に取り扱ったとは評価できないというべきである。

  ウ この点について、会社は、食堂階の1か所へのA3程度の組合掲示板の貸与と18時以降の会社会議室の利用という組合の具体的な要求に対し、7月4日付「回答書」において、当該会社施設の状況や便宜供与を認めた場合の会社の負担、Z1に便宜供与を認めるに至った経緯などの具体的な事情を何ら説明せず、組合と会社との間に信頼関係がいまだ存在しないという抽象的な理由を述べるだけで拒否したのであるから、結局、会社は、組合の要求内容いかんにかかわらず、現段階では一切の便宜供与を行わないとの姿勢を示したものとみられてもやむを得ない。

したがって、会社が本件便宜供与の要求について、合理的な理由を示さずにこれを拒否した対応は、中立保持義務に反し、支配介入に当たる。

⑶ 救済方法について

本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たり、会社が本件便宜供与の要求について、合理的な理由を示さずにこれを拒否した対応は、支配介入に当たるというべきであるが、労働組合による企業の物的施設の利用は、本来的には使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるものである。

本件においては、会社が合理的な理由を示さず組合の便宜供与の要求を拒否し、かつ本件団体交渉に誠実に応じなかったために、組合との間でそれ以上の交渉が行われていない。そのため、便宜供与の要否や具体的な内容を判断するに当たって必要な事情が必ずしも明らかになっていないが、組合は、会社が求めた組合規約ないし設立の趣意書等について便宜供与や団体交渉ルールの交渉が進展すれば開示を検討していきたいと述べるなど労使関係の進展に応じて組合の情報を開示していく姿勢を見せていることからすれば、便宜供与について、今後、労使双方が団体交渉により解決すべきである。

以上の事情を考慮し、本件の救済方法としては、主文第1項のとおり、組合が便宜供与を議題とする団体交渉を申し入れたときは、これに誠実に応ずるよう命ずるのが相当である。

 

5 命令書交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成30年3月30

 ⑵ 公益委員会議の合議 平成31年4月23

 ⑶ 命令書交付日    令和元年6月10